「小さな旅」、北海道積丹半島から

 「カズオ、観てるか? 積丹やっているぞ―」、ベットでとった携帯からKくんの元気な声が飛び込んできた。時間を見たら7時半過ぎ、日曜日なので二度寝してしまった。起きたらテレビ画面に日本海の荒波がしぶきを上げていた。NHK「小さな旅」で、積丹半島余別地区に暮らす漁師のドキュメントだ。この冬は時化(しけ)続きで、まだ2日しか漁に出ていない。
 
 ようやく出漁して定置網を上げたら、ホッケ2トンと水蛸3パイの漁でまずまず。漁師が自宅にホッケと大きなタラを持ってきた。フライ、味噌汁などに使う分だ。漁師の家では昔からあるものを食べるが原則。同じ魚が何日も続くことも多い。時化がおさまるまで忍耐強く待ち、凪(なぎ)たらすぐに船を出す生活だ。冬の日本海の破壊的な恐ろしさを知っている。
 
 岩海苔(いわのり)を採る場面もでてきた。荒波をかぶった岩の表面に岩海苔が育つ。1月末から3月ぐらいまでの厳寒の時期しか採れない。長い縦竿に赤い布がつけられ、それが上がると岩海苔解禁となる。この日は2時間だった。男も女も夢中になって岩海苔をむしりとる。これを簾(すだれ)で乾燥させた製品は高価で引き取られる。漁師たちは目の色を変えて取り組む。
 
 この高級岩海苔の場面をみていて、寿都に嫁いでいた叔母(母の姉)を思い出した。古平の親元に来る時は手製の高級海苔を持参して、わが家にも届けてくれた。真っ黒で分厚く、その味は市販されている海苔とは比較できない美味しさだった。真っ当な手間をかけた仕事がなせる業だ。漁師本来の姿だ。こうした思い入れはいまの底引き網の一攫千金主義からは排除される。