「♪ながめを何にたとうべき…」

  昨日のお昼ご飯は「花見弁当」だった。幕の内弁当の少し彩(いろどり)が鮮やかな感じで、目と喉がよろこんだ。食事はワクワク感があるかないかでまったく異なる。食べる箸が踊った。今年は満開の桜を見ないで終わったが、花見弁当で満足したことに。

 

 「♪はるのうららの墨田川 上り下りの船人が…、ながめを何にたとうべき」、むかしならった唱歌をつぶやいてみる。川沿いに満開の桜の下、舟から見上げる。錦のごとく咲き誇る樹々からハラハラと四月の風に舞い散る花びら。川の流れは人生だ。

 

 わたしより二歳年上のT さんはいまベトナムにいる。日本語学校のボランティア教師として働き始めたら、今回のコロナ騒動で学校が休みになった。去年の春に近くのお寺の満開桜を写真に撮りながら、「この桜を見に戻ってくるから」と約束していた。

 

 動きが取れない状態でもマイペースで楽しめるのが彼の良いところ。どの国へでも出かけて行く行動力の裏でつねに覚悟を決めている。そんな素振りはぜったい見せない。「Tさん、ベトナムの桜坂の写真を送って」と念力を送る。とにかく早く戻ってよ。