唯川恵「病む月」

   唯川恵の短編集「病む月」(集英社文庫)を寝る前に一編ずつ読んでいる。十篇収められていて、昨夜で六篇を読み終わった。いずれの作品も作者の出身地・金沢とその周辺を舞台にしている。これらの作品は女性の心の奥底に潜むどうしようもない切なさを浮き彫りにしている。あとで気がついたのだが、夜寝る前に読む本ではない。人間の業と向き合わなければならなくなるからだ。
 
 「いやな女」、「雪おんな」、「過去が届く午後」、「聖女になる日」、「魔女」、「川面を滑る風」と短編が続いていく。それらを俯瞰する形で「病む月」というタイトルがつけられている。月は元々、狂気の象徴でもある。あの光と影が織りなす微妙な襞が人に現れるとき、その人の心は次第に病んでいく。その心の切なさはだれにも止めることはできない。今週中に読み終えて、ダンボールに仕舞おうと思っている。
 
 金沢は仕事やプライベートでかつて10回以上訪れている。距離感の取りにくい街で、その時々によって狭いと感じたり、広いと感じたりする。空気が跳ねていないので、街全体に重力がかかっているようだ。唯川作品には金沢の伝統工芸が織り込まれているが、この街の女は独特のルナティックさをもっている。すごい大人の女性たちなのだ。次回、行ったら確認もしたいが、止めておいた方が良さそうだ。
 
 この街は多くの作家を輩出している。泉鏡花室生犀星は言うまでもなく、今どきの人気作家・桐野夏生唯川恵に至る系譜がある。かの五木寛之は海外放浪のあと、夫人の郷里である金沢で「さらばモスクワ愚連隊」を書き上げ、デビューした。「朱鷺の墓」、「内灘夫人」などはこの街が舞台であった。30代から40代にかけてもっとも金沢に行っていたが、今、この歳になって通えばなにが見つけられるか?