「孤立化する認知症高齢者」

昨夜の「NHKスペシャル」は「"認知症800万人"時代、"助けて"と言えない孤立する認知症高齢者」だった。高齢者の一人暮らし、あるいは夫婦の片方が認知症。それらが急増している現状がドキュメントされた。「助けて」のSOS発信を拒否するので、周囲も気づくことができない。徘徊やゴミ屋敷などで顕在化しても認知症が悪化して意思が確認できないため、介護サービスに繋げることができない。
 
鎌田靖キャスター(NHK解説委員)は、ごく当たり前の人生を送ってきた高齢者が、救いの手が差し伸べられないまま放置され、“漂流”していく実態を追う。連日通報が寄せられる「地域包括支援センター」のスタッフはあまりにも少ない。さらに、社会保障費を抑制せざるを得ない今後、どうしていくべきか。鎌田氏は、現場での模索を浮き彫りにした。彼の番組はいつも鋭く時代を切り取る。
 
離婚した夫から習ったギターを弾く一人暮らしの老女は、介護拒否で栄養悪化に。若い頃に自分でテープに吹き込んだ歌謡曲を、涙を滲ませながら聴く一人暮らしの高齢男性は「離婚しなければ良かった」とかつての家庭団欒の部屋で、そう語る。また、認知症の自覚がない妻を必死で支え続ける夫は心身ともに衰弱している。この場合は夫婦愛のために他人の助けを受け入れられない。
 
   「人に迷惑をかけたくない、自宅がいちばん良いから」と介護施設利用の勧めを断る老人たち。役所の担当者は何とかしたいが、現状はあまりにも微弱だ。玄関扉の中の悲惨な状況は、対人関係を拒否する老人たちの荒れた心の状態だ。今後、団塊の世代が一挙に高齢化してくる。「助けて」と声をかけられる真の地域社会は成立できないのか―。われわれ団塊世代認知症高齢者に足を踏み入れつつある。