帰郷(4)―セタカムイ(犬の神様)伝説

セタカムイは犬の神様。アイヌ語だ。積丹半島古平町沖町に犬が遠吠えをしている形の奇岩(セタカムイ)がそそり立つ。子どものころからこの岩の伝説にいつも惹(ひ)かれていた。アイヌのラルマキという若者が漁に出たが戻らなかった。彼の愛犬はずっと飼い主の帰りを待ち続けて岩になってしまったという。高さ80㍍のこの岩は、いまも威厳をもって日本海をにらんでいる。(アイヌは狩猟民族なので、犬は特別な相棒だ)。
 
かつて余市高校にバス通学していた頃、セタカムイを眺めながらときどき妄想していた。積丹半島に残っている伝説を混ぜこぜにした切ないレジェンドだ。
 
源義経が奥州から北海道に落ち延びてきて、シャコタン(シャク・コタン=夏の小部落)でアイヌの長(おさ)の娘・シララと恋に陥る。やがて北に向かって逃亡していく義経を忘れられないシララは積丹岬から海に身を投げ、女郎子岩(じょろっこいわ)になる。シララが飼っていたアイヌ犬が義経の後を追って古平の沖村まで来たが、義経は小船でローソク岩の方に去ってしまった。その犬は古平の断崖から闇の中で尽きることなく遠吠えをした。この夜、ローソク岩には火がともった。あくる朝、犬は岩になって海に向かい突き出ていた。
 
セタカムイが良く見える国道229号の脇にはあまり広くはないが、防災公園の駐車場がある。ときどき愛犬家が自慢の犬を連れてきて、セタカムイを背景に写真を撮っているという。愛犬と飼い主との絆を深めるのだそうだ。愛犬家たちの隠れスポットになっているらしい?!