「瀬戸内寂聴のメッセージ」

   瀬戸内寂聴さんは健在だった。昨夜の「クローズアップ現代」で、「これからはもっと色っぽい小説を書ける。最後の構想を持っている」と述べた。これを聞いて、俳人鈴木真砂女を主人公にした小説「いよよ華やぐ」をおもいだした。恋多き老女とその娘のやりとりを抑えたトーンで、情熱的な真砂女の生き方を描いた。娘のMさんとは少しだけ知り合いだ。
 
 Mさん(本山可久子さん)は新劇女優で、「今生のいまが倖せ…母、鈴木真砂女」(2005年、講談社)を出している。それを読むと娘からみた母親で、俳人で、銀座・小料理屋「卯波(うなみ)」の女将で、恋心多き真砂女の姿が浮き彫りになる。「いよよ華やぐ」と併読したが、いくつかの発見があった。例えば、真砂女が娘の前では子どものようだったことなど。
 
寂聴さんは胆のうガンで寝たきりになったが、リハビリで再起した。「青春は恋と革命だ」という言葉を繰り返して、若者を含む視聴者にエールを送った。「革命」とは自らの好きなことに一途に突進していくという意味だ。他人などお構いなしに、それを成し遂げようとすることでこそ自分が変わり、社会が変わる。つねに前向きな彼女らしいメッセージだ。
 
最新作は男性老人の若い女性への恋がテーマ。「今は書くことだけなので、ますます小説が色っぽくなっていく」、「執筆中にペンを握ったまま、バタッと息絶えたい」と語った。闘病中にうつ状態になったが、克服した。「自分が重病になって初めて弱者や病気の人の気持ちが分かる。多くの人に励ましや慰めをしてきたが、それらは真のものではなかった」。
 
本日93歳の誕生日。視力も聴力も頭脳もまったく明晰だ。「今の人は体の衰えをあまりにも気にしすぎる」と指摘。墓石には「愛した 書いた 祈った 寂聴」と刻みたいそうだ。「93年間はあっという間だった。短かった」と断言した。波乱に波乱続きの人生を歩んできて、ひとつ突き抜けた人の言葉は明快でありながら、とてつもなく奥深かった。