「軽井沢トップセミナー」

 かつてこの時期は毎年、軽井沢プリンスホテルに行った。日本生産性本部が開催する「軽井沢トップマネジメントセミナー」で講演の抄録執筆に招へいされた。2泊3日の日程で朝9時から深夜まで、会場の国際会議場で取材し、振り当てられたコテージで原稿にまとめる作業を必死に行った。その緊張感が好きであれこれ10年以上もつづけた。
 
 この仕事は自分の書く技を鍛え上げてくれた。時間的に早く書き上げる。A4用紙に印刷したら3ページ程度のボリュームで書く。講演のポイントを明快にする。それらが仕事の要諦だった。書き上げた原稿は事務局担当者がワープロ打ちと印刷に回し、翌朝一番でセミナー出席者に届けられた。講演メモも原稿も自分の場合は、手書きの方が断然早かった。
 
 こんなに頑張れたのは40~50代の頃の話で、今では考えられないエネルギーで仕事に向っていった。コテージは一人の時もあったが、たいがいジャーナリストのMさんと一緒に使った。片方が取材に行けば、もう片方が原稿を書くという具合だ。夕方からはリビングで二人そろって書き続けた。深夜、それぞれの分担を書き上げた解放感で、すぐに酒盛りを始めた。
 
 参加者は有力企業トップ・役員で、講師陣は優れた経営者、経営・経済学者、モノづくり技術者、評論家などだった。私自身が「今」の経営の最高レベルを直接学ぶ機会になった。時には当時長野県知事だった田中康夫氏、建築家・安藤忠雄氏、哲学者・山折哲雄氏などがゲストスピーカーで講演した。時の大蔵大臣、通産大臣が来たこともあった。そんな時はマスコミが押しかけた。
 
 「軽井沢トップ」は1958(昭和33)年、日本で初めての経営者セミナーとして始まった。以来、夏の財界セミナーのトップをきって毎年開催され、今年は第61回目。「共創による生産性革新」を統一テーマに6~今日まで。毎年この時期になれば軽井沢もけっこう暑い。書き上げた原稿を事務局に届ける時に、まっ青な空と手入れが行き届いた緑の木々が眩しかった。