「正月頭」

 昨日午前、久しぶりに髪を切ってもらった。家人の友人Nさん宅に行き、レザーカットで爽やかな髪型になった。Nさんは六本木で美容室を経営するベテラン、退院したあとにもわが家に来てカットしてくれた。「クリスマスの前にまたね」と言っていた。
 
 帰り際にNさんは来年のカレンダーと鉢植えを家人に渡した。さっぱりした自分は、「正月頭」という言葉を思い出した。父は漁師だったが、陸では身なりを清潔にした。漁から戻ると床屋と銭湯に行き、町の様子や漁の具合などを情報交換した。
 
 年の瀬が近づくと「早く床屋に行け」と息子二人に言った。年末は床屋さんが満員で、帰宅すると「お正月頭になったなぁ」と微笑んだ。身を整えて新年は迎える、それが流儀だった。時化の時に神棚を清掃し、襖を張替え、マユダマを飾った。
 
 髪が短くなり頭が軽くなった。家人が「暖かい帽子をかぶったら」と勧めた。上京以来、冬に帽子をがぶったことがない。それにしてもNさんのレザーカットで髪が切れる音は小気味良かった。心リズミカルに新年を迎えたい。あと10日だ。