佐伯啓思教授
「ドイツの法学者カール・シュミットは『社会の変革や戦争のような例外状況では民主主義が機能しなくなり、独裁が必要になる』と言いました。今は国家が資源や食糧をめぐって激しく競争する『例外外交』が日常的に続いている。フランスの人類学者エマニュエル・トッドは『近いうちにヨーロッパで民主主義は停止され、独裁主義が出てくるだろう』と言っていますが、十分にありえます。事態を一気に動かすには独裁しかないのです」
内外の動きが一段とそうした傾向を強めているように感じる。人々が経済の低迷からますます不機嫌になり、政治に対する不信感をどうしようもないほど強めている。社会のパラダイム転換が声高に叫ばれてきたが、依然としてその姿は見えてこない。
「資本主義の根底にあるものは、『発展という強迫観念』のようなものであって、モラルとは無縁のものである」
「一面では、人間の未知なるものに対する想像力の危機だともいえる。人間は『新しいもの』を手元にたぐりよせる強力なメカニズムを失いつつあるからだ。だが、逆にいえば、その想像力を産業技術が独占していた『近代』を脱して、それをもう一度、文化や知識の領域に取り戻す可能性も開かれてきたのである」