佐伯啓思教授

佐伯啓思京都大学大学院教授が昨年、次のように語っていた。(朝日新聞・インタビュー記事「オピニオン」12/1)
 
古代ギリシャの時代から、民主主義は放っておけば衆愚政治に行き着く。その危険をいかに防ぐか、というのが政治の中心的テーマでした。だから近代の民主政治は、民意を直接反映させない仕組みを組み込んできた」
「ドイツの法学者カール・シュミットは『社会の変革や戦争のような例外状況では民主主義が機能しなくなり、独裁が必要になる』と言いました。今は国家が資源や食糧をめぐって激しく競争する『例外外交』が日常的に続いている。フランスの人類学者エマニュエル・トッドは『近いうちにヨーロッパで民主主義は停止され、独裁主義が出てくるだろう』と言っていますが、十分にありえます。事態を一気に動かすには独裁しかないのです」
 
 内外の動きが一段とそうした傾向を強めているように感じる。人々が経済の低迷からますます不機嫌になり、政治に対する不信感をどうしようもないほど強めている。社会のパラダイム転換が声高に叫ばれてきたが、依然としてその姿は見えてこない。
 
 佐伯氏は「『欲望』と資本主義~終わりなき拡張の論理」(講談社現代新書)でこう述べていた。求められているパラダイム転換の方向を示している。20年も前の指摘である。
 
 「資本主義の根底にあるものは、『発展という強迫観念』のようなものであって、モラルとは無縁のものである」
「一面では、人間の未知なるものに対する想像力の危機だともいえる。人間は『新しいもの』を手元にたぐりよせる強力なメカニズムを失いつつあるからだ。だが、逆にいえば、その想像力を産業技術が独占していた『近代』を脱して、それをもう一度、文化や知識の領域に取り戻す可能性も開かれてきたのである」