「辞めたくても、辞められない! 」(溝上憲文著)

 気鋭の人事・雇用問題ジャーナリスト・溝上憲文氏の新刊「辞めたくても、辞められない! 一度入ったら抜けられないブラック企業の手口」(廣済堂新書、本体800円)では「会社を辞められない」人たちが約10人に1人もいるという。その実情は吐き気をもよおすほどの恐怖と悲惨さであることを、具体的な取材から書き留めている。「辞める自由」などすでになく「虐待」に近いのが現実だ。
 
 溝上氏は「会社が権力を振りかざし、労働者が圧倒的に不利な立場を余儀なくされている。労働者の権利を無視したとんでもなく悪辣な企業が増えている」と指摘。一般的にはブラック企業=「使い捨て企業」だが、実は「辞めさせない企業」も実態はパワハラそのもので、双方の会社は表裏一体の体質を持つと分析。労働者は疲弊し、職場は病んでいると述べている。
 
 昨年5月20日に取り上げた同氏の力作「非情の常時リストラ」(文春新書、本体770円)は2013年度日本労働ペンクラブ賞を受賞した。「大選別社会に備えよ。同期入社でも500万円の年収差。非管理職40代社員が狙われる」、「日本企業の行き着く先を一言でいえば、『選別主義』の強化だ。日本の企業文化の大転換である」と喝破していた。
 
 新刊は合わせ鏡の一つとして書かれている。「辞めさせないための巧妙な手口」は、①洗脳的説得、②転職の妨害、③脅迫的言葉の繰り返し、④暴言・暴力で怖がらせる、⑤自宅まで押しかけなどのストーカー的行為。これらブラック企業の特徴は低賃金・重労働、人手不足、独裁的経営者。「パワハラ防止法」や労働者の戦う意思と知識武装が必要だと提言している。