帰郷(1)―父を想う
84歳の叔父は驚くほど元気だった。今年1月に大手術をしたが、リハビリで体力を維持している。母のすぐ下の弟だ。早く父を亡くしたわたしにとっては父でもあり、兄でもある。背筋を伸ばして自宅から港の先まで毎日歩いて往復しているという。2キロ余りになるそうだ。叔父の父親(わたしの祖父)は83歳で亡くなったから、その年齢をすでに超えた。
45年前に上京する前の日、古平町に帰っていた。叔父はわたしを港の岸壁に連れて行き、二人で海を見つめていた。しばらくしたら、叔父は紙袋をポケットから取り出して渡してくれた。「東京に行って困った時に使え」。そして二人で家に帰った。あとで開いたら大金が入っていた。このお金は一ヵ月後に東京で結婚してアパートを借りる敷金になった。
今回の旅行は叔父の見舞いが目的の一つだったが、元気だったので父と母が最初に会ったころの様子を質問した。叔父ははっきり覚えていて、「お前の父さんは結婚する前から当時狭くて家族の多かったわが家に泊まりに来ていた。ほぼ毎日な。ジジとババ(わたしの祖父母)の公認だった。しばらくしてから結婚したんだ」。これはまったく初めて聞いた。