帰郷(2)―「ウニ」と「タコマンマ」

 毎年6月に北海道に行くのは、この月からウニ漁が解禁になるからだ。獲れたてのウニを食べると、記憶の底に沈んでいたあの甘さが口いっぱいに広がる。地元の人たちは「本当は7月初旬ぐらいにもっと甘味が奥深くなってくる」という。いずれにしても初モノを美味しくいただいた。東京の料亭に航空便で直送されている。
 
 今回、生ウニと握り寿司を食べたのは古平町の老舗「港寿司」。子どものころからあって、漁師も食べに行く人気の名店だ。職人肌のご主人が古平町や積丹(しゃこたん)半島で獲れる魚介類をみごとな料理に仕上げてくれる。今回は突き出しに「タコの卵(タコマンマ)」を生で初めて味わった。積丹の珍味の一つだ。タコのマンマは幼いころ母が茹でてくれ、兄妹一斉にかぶりついた。
 
 積丹町の妹夫婦の家ではヒラガニの茹でたものが用意されていた。獲れる場所が限られていて多くは流通していない。上海ガニのような形で、身はあまり多くはないが濃厚な旨味を舌に残す。この汁物も出されたが、ダシは例えようがなくゴクリお代わりをした。オオバ(メバルの仲間)という魚は唐揚げになって出た。唐揚げは初めて食べた。煮つけでも焼いても上品な白身だ。
 
 積丹半島のウニはかなり高く評価されている。これから本格化する観光シーズンには、ウニ丼を求めて札幌・小樽から家族連れやグループの車が殺到する。たった一本の海岸道路(国道229号)、といってもほとんどトンネルになってしまったが、渋滞でなかなか先に進めなくなる。「ウニ丼渋滞」と地元の人たちは嘆く。みじかい夏一杯、積丹半島は自然も人もお祭りだ。