蝉時雨

突然の「蝉時雨」に驚いた。昨夕、郵便受けをみに玄関を開けたら、蝉の声が路上に充満していた。札幌の妹に「猛暑もピークです」とメールを打ったばかりだった。明らかに晩夏の兆し。すぐそばの電柱を探したが、一つの姿をも見つけることができなかった。「電柱も木も傾かせ蝉しぐれ(桑島啓司)。
 
「蝉はたった七日の本番のために、七年もの準備期間を過ごす」。そう言われる。違う友人は「「蝉の一生における本番は、土の中で安らかに過ごす七年間であり、地上に出る七日間は、子孫繁栄のための最後の奉仕なのだ…」とも話す。蝉時雨は究極の求愛voiceに他ならない。昔から蝉の一生は人生に重ねて語られてきた。
 
藤沢周平「蝉時雨」、角田光代「八日目の蝉」。ほとんどの人は人間が生きることの切なさと真実の意味を考えてしまうだろう。藤沢作品の「静謐さ」、角田作品の「めぐり合わせ」は、力を与えてくれる。この夏の終りの始まりにも、すべての人は自分を全身で生きている。そう思う。 (本日BS朝日18:00から映画「八日目の蝉」)。