「土佐・永野のかまぼこ」

   「土佐・永野のかまぼこ」を古い付き合いのKさんご夫妻がお見舞いで届けてくれた。息子の嫁さんNさんが受け取って冷蔵庫に入れ、扉にメモがあった。Kさん夫人は高知市出身で御母上の介護のために帰郷していた。帰宅後、さっそくお礼の電話をしたらKさんが「今日高知から戻ってきたので」とうれしそうな声だった。
 
「永野」は有名な蒲鉾店で、いつもは冷静なKさんが「その味はちょっと違うよ」と少し自慢したのが可笑しかった。ときどき友人や知り合いから故郷の蒲鉾をいただくことがある。仙台出身Yさんからの笹蒲鉾、M先生からの下関「白銀」などだが、いずれも「わが故郷の蒲鉾は日本一」と揺るぎない自信をもっている。
 
こうした「ふるさと自慢」は微笑ましくて、わたしも「北海道古平(ふるびら)町の水産加工品は天下一」と信じている。蒲鉾は原料の魚が異なるので、味と噛みごこちが異なる。こんなふるさと自慢をしながら旧交を暖め合うも一興だ。年末・年始はとくにそんな場面が多くなる。笑顔で年を越し、笑顔で新年を迎えたい。
 
しかし、この「永野のかまぼこ」は記念品になりそうだ。今月で後継者不足のため閉店になるという。
 
高知県を代表する老舗かまぼこ店「永野蒲鉾店」(本社・高知市はりまや町1丁目、寺尾正生社長)が11月末で閉店する。1878(明治11)年の創業から136年。市民の食卓を支え、贈答品の人気も高い県内食品業界の優良企業として知られてきたが、後継者がいないことや、近年の“練り物離れ”などから自主廃業を決めた。いそ天、ししゃもちくわ、卵の入った大丸…。子どもからお年寄りまで、たくさんの品々が世代を超えて親しまれてきた」(高知新聞10/8)。
 
地方経済を牽引してきた水産加工食品が、次々と難関を迎えている。地方の活性化、地方再生が政治家たちから声高に叫ばれるが、ほんのひとときの波の華で消滅する。各地特有の伝統の技も風前の灯だ。日本人はもう一度魚と真摯に向き合わなければ、食糧問題は解決しないと思うのだが…!?