「冬のハエ」

 「小生、゛冬のハエ゛のごとく、生き続けてます」
 
 この年末に読んだら、彼一流の言葉のマジックにかかった。千葉県流山市に住む友人・Oさんから届いた今年の年賀状のコメントだ。久しぶりに笑った。数年前、橘曙覧の「独楽吟」(「たのしみは」で始まって「・・・とき」で終わる和歌)を教えてくれた尊敬する友人の一人だ。
 
 先週末、年賀状を投函。宛名だけはいまだ手書きで通している。手に震えが来たら止めるが、今年は年一回の筆ペンが思ったよりも走ってくれた。その際、もらった年賀状のコメントを読み返す。年初に感じなかった思いを抱くこともある。自分はいま、冬のハエ状態だ。「生き続けよ」、わたしに対する激励だった。
 
 梶井基次郎は「冬の蠅」をこう書き出している。
 
 「冬の蠅とは何か?よぼよぼと歩いている蠅。指を近づけても逃げない蠅。そして飛べないのかと思っているとやはり飛ぶ蠅。彼らはいったいどこで夏頃の不逞さや憎々しいほどのすばしこさを失って来るのだろう。色は不鮮明にくろずんで、翅体は萎縮している。汚い臓物で張り切っていた腹は紙撚(こより)のように痩せ細っている。そんな彼らがわれわれの気もつかないような夜具の上などを、いじけ衰えた姿ではっているのである。冬から早春にかけて、人は一度ならずそんな蠅を見たにちがいない。それが冬の蠅である」
 
 間違いなく、自分はそんなものだ。「少し動きおのれ確かむ冬の蝿 川端麟太」。まちがいない…当たっている。それでも笑って生きられるか? 勝負どこに来た。