「鰍汁」

「鰍」って字、読めますか? 分かる人はかなり魚通の人ですね。正解は「かじか」。子どものころ真冬に数回、父がもって帰ってきた最高に好きな魚だ。その北海道積丹半島で獲れたかじかを妹に送ってもらった。旬は冬、寒冷期に産卵のため深海から沿岸に寄ってきた。超グロテスクな顔は鮟鱇に似ているが、味も負けないほど美味しくて、旨い◎。
 
長さ約30cm、頭の幅約10cmの塊をお昼に冷凍庫から出しておいた。今日のようなモヤモヤで滅入るような天気の日は、取って置きのご馳走を食べるに限る。いま見たら、だいぶ冷凍が融けてきた。もう少ししたら、出刃包丁でブツ切りにする。大根、ジャガイモ、ニンジンなどの野菜を入れて味噌仕立ての鍋にする。息子家族にもおすそ分けだ。
 
これで冷凍庫に入っている今冬の鍋用の魚は終り。北海道の日本海沿岸では安くて美味しい家庭料理だ。10年ほど前ぐらいから、この種の子ども時代に食べた食材がむしょうに欲しくなる時がある。以前は、そう思って妹に頼んでも時期が外れてしまったことが多かった。今は阿吽の呼吸で食べたい魚などを宅配便で送ってくれる。贅沢の極みだ。
 
入社間もない頃、評論家の扇谷正造先生に付いて千葉での講演会に行った。帰りに扇谷先生が「この年になってくると、16、17歳頃に食べたおふくろの味がいちばんご馳走になる」と言われた。「何の料理ですか?」と聞いたら、「肉じゃがかなぁ!!何でもだよ」と笑った。当時の扇谷先生の年齢をすでに越えているが、俺にはあの威厳はまったくないな。