ジャック・アタリ氏「欧州の難題、悲観しない」

   今朝の読売・解説面にジャック・アタリ(仏経済学者・元ミッテラン大統領特別補佐官)へのインタビュー記事が大きく掲載されている。同氏はフランスを代表する知識人の一人で、わたしは以前、宇佐神先生宅の研究会で彼の著書「21世紀の歴史」について内容を聞いていた。彼が進めてきた欧州統合が大きく揺らいでいる中、欧州の今と未来の姿を語っている。 以下は要約。
 
 「目下の脅威はロシア、イスラム、アフリカだ。対応を誤れば統合が頓挫する可能性もある。ギリシャ、スペインなどのポピュリズム(大衆迎合)政党の台頭が気がかりだ。ギリシャは『ユーロー離脱』の脅しをかけている。しかし、私は悲観していない。解決可能だ。ギリシャ国民の大半は『ユーロー残留』を望んでいる。離脱したらギリシャには打撃だが、欧州は持ちこたえられる」
 
 「世界は更なる多極化が進む。米国に代わる新たな『帝国』は出現しない。ローマ帝国末期のように後継不在のまま没落していく。中国が米国に取って代わることはない。中国は周辺支配の欲望をあらわにし、日本との緊張が増幅しよう。露シベリアに領土的野心を抱き、中露戦争を引き起こす恐れもある。その野心は周辺に限られ、世界的な使命感はない」
 
 「日本は今でも科学技術力を維持しているが、人口減少問題で適切な政策を講ぜず、自滅を選んでいるように見える。大胆な人口政策に踏み出す政治決断が必要だ」
 
 「米国の衰退に伴う世界の多極化で『Gゼロ』(米政治学者イアン・ブレマー氏の概念)に向う。市場の力がますます拡大するが、監督する『政府』はない。法治は利かず、犯罪的な経済が幅を利かせる。失業や不平等は拡大し、世界は混沌に陥る。民主主義は無力になる」
 
「その後、国家と国家、国家と非国家集団との戦争が世界で起き、人口大移動が起きた末に民主的な世界秩序に行き着く。あるいは、世界戦争に至る前に人々が私利私欲ではなく、利他主義の利益に気づいて民主的秩序づくりに向う―。これが私の描く『未来の歴史』だ。欧州は未来社会の民主的秩序作りを占う前衛的な存在なのだ」。