「だだちゃ豆」

   数日前に届いた「だだちゃ豆」を毎晩食べている。妻が引き出物のカタログから選んだもので、山形・鶴岡市の「朝採れ」が売りのブランドだ。豆の風味と味の濃さは市販の枝豆とはあきらかに違う。鶴岡出身の作家・藤沢周平が好んで食したという。
 
藤沢は山形の銘酒の名をいくつかあげたあと、「これに絶妙の旨みを持つ旧西田川郡(鶴岡市白山周辺)の枝豆『だだちゃ豆』があれば他に馳走はいらない」とまで述べたそうだ。山形もまた名酒の多い土地柄だ。米と水に恵まれた風土なのだ。
 
酒田市には取材で行ったが、予定が混んでいて隣の鶴岡まで足を伸ばせなかった。藤沢の育った街と庄内藩の名残りを覗きたかったが、叶わず。要は庄内という土地の空気に触れてみたかったのである。酒田とは異なる清廉さを想像していた。
 
藤沢周平は食品業界紙の編集長としても足跡を残した。食べものにかかわりをもった作家の多くは心も筆も精緻だと気づいた。好んだ食べものを文字に変えて指から紡ぎだしていたのかも。作家は食に繊細で貪欲でなければならないようだ。