「ボクサー」

 沢木耕太郎による朝日・連載小説「春に散る」がようやく本幕に入ってきた。今日は173回目だ。主人公・広岡のべールがしだいに剥がされてきた。いよいよ物語は動き出していく。これまでは序章であり、導線であった。沢木がよく書いてきたボクサーと旅がテーマ。
 
 沢木はわたしと同年代で、20代の頃から気が向くたびに図書館から借りて読み飛ばしてきた。鋭いナイフみたいな感性でペンを走らせ、切れる風のような文章を書く人だ、いつもそんな印象をもった。40歳を過ぎてからはほとんど読んでいなかったが、今回はまじめに読んでいる。
 
 ボクサーと旅はまちがいなく人生を内包している。同年代の友人たち、そう思うだろう!? 若いときに無茶をしてきた人間ほどそれを理解できる。そんな年齢に俺たちも、沢木もなってきた。小説は静かに始まって、ここまで来た。噛み締めるフレーズが毎日どこかに入っている。
 
 サイモン&ガーファンクルの「ボクサー(The boxer)」を窓の外を眺めながら聴く。1969年リリース。やはりこの年夏の「ウッドストック」は歴史に架かっていた大きな石橋を叩き壊したのだ。曲を聴きながらそんな時代だったと思う。