電通「鬼十則」

  かつて企業研修などで、アフリカに行った靴セールスマンの話があった。一人は本社に「ダメです。一人も履いている者はいません。売れません」と報告し、もう一人は「バッチリです。まだだれも履いていません。すぐ送ってください」と電信した。
 
 何故こんなことを思い出したかといえば、小物入れ棚の奥に「電通鬼十則』~広告の鬼・吉田秀雄からのメッセージ」(植田正也PHP文庫、2006年9月)が挟み込まれていた。会社の文書を探していたら、変色して出てきた。読んだまま隅に押しやられて7、8年経っていた。
 
 入社した頃から「鬼十則」については知っていた。たびだび会社幹部から檄が飛んでいた。「我々の仕事は物をつくりあげる実業ではない。仕事の鬼、広告の鬼であった吉田秀雄が伝えた原理・原則は厳しい時代ほどその真価を発揮する。広報戦略のプロをめざすなら実行せよ」。
 
 かなりのことはやってきた。だが、とてつもないことはできなかった。一昨日、昨日この本を読み返したら、半分力(りき)が入り、半分読むだけで疲れた。こんな緊張感で40年間も仕事をしてきたら、心が疲れるのは当たり前だと思った。老化の半分は精神疲労なのだ。睡眠第一。