「引き際の美学」

 「巨人 原監督退任」、一面左上にさわやかな笑顔のアップ写真。スポーツ面は「名将、完全燃焼」と見開きで大特集、さらに社会面までほぼ独占。今朝の読売新聞は「原辰徳監督退任」記念大特集号を兼ねている。親会社あげての最大の餞別でもある。わたしは「原辰徳」に斜目と皮肉な眼しか向けてこなかったが、初めて謝辞を送る。「お疲れさまでした!!」。
 
 彼のコメントは嫌いだった。巨人軍好みの紋切り型で、その声の若々しさ、爽やかさに嫉妬していたのかも知れない。原辰徳はいつもアクティブな言葉を不器用に語り、明るい笑顔で女性からも人気者だった。勝負の世界に生きる者はもっとドロドロしても良いのだ。彼のコメントを聞くたびに僻(ひが)んだ。終始、「巨人軍は紳士たれ」のぶっちぎり優等生だった。
 
 今年の成績もチーム事情を考えれば合格点だと思う。しかし、そのチーム力の低下を一新するために監督交代との選択肢をとった。見事な「引き際の美学」だと感心した。この一点で急に原辰徳が好きになった。巨人軍は原辰徳をここまで賞賛しなければ、ファンや新聞購読者から見放される大事な場面なのだ。今朝の特集瓦版を兼ねた恩賞も実はそこにある。
 
 昨日から「原監督退任」のニュースはマスコミで大きく取り上げていたが、長嶋時代を知る人間より、原時代を語る年代の方がすでに社会の主流を占めていると痛感した。人は誰もが「引き際の美学」によってその活動を全うする。老害は百害あって一利なし。次期監督が気になるが、ファンをひきつけるドデカイ魅力がほしい。コーチ陣が重要になる。