筆力

 葉書を投函するため眼鏡店近くのポストに向いながら、父の葉書を思い出した。子どもの頃、父は長い漁から戻るたびに北海道栗沢町に住む妹に便りを書いた。筆力のある元気な字だった。「ポストに入れてきて」と渡されて、川向こうにある商店の前のポストに走った。父は二人兄妹で、叔母を可愛がっていた。夏休みと冬休みには家族で栗沢の家を訪ねた。
 
 いまは携帯電話があるので、必要な時にはすぐ連絡できる。弟や妹たちとはひんぱんに連絡を取り合っているが、父ほどの深い思いを込めた内容ではない。手紙の優れた点はそこにあるが、我々のメールはそれとは少し異なる。やや機械的に言葉を連ねて用件を伝えている。自分自身、深い思いを込めた手紙を書くことは、最近、めったになくなった。
 
 私の字は父の字に似ている。私だけでなく弟妹たちの文字もどこか似ている。父は漁に出る前、「けんかをしないこと」と半紙に墨で書き、神棚の横に貼った。古平小学校に四兄妹がいた時期もあり、騒々しかったのだ。私の文字がこのごろ「筆力が落ち、か細く弱々しくなった」らしい。妻がそう言う。彼女は昔からM先生の一画一画が力強い文字を好む。