「青い山脈」、新子・杉葉子さん

 昨夜から「伝説の女優」・原節子さんが亡くなっていたとの報道が相次ぐ。今朝の朝日、読売一面は「原節子さん死去 95歳『東京物語』『青い山脈』」とまったく同じ。このニュースを見ていて、20代半ばの自分を思い返して赤面した。「青い山脈」で寺沢新子を演じた女優・杉葉子さんにお会いした時のことを思い出したからだ。
 
 当時、まだ入社数年で日本専売公社(現JT)の広報担当アシスタントをしていた。上司・U氏から「公社社内報で幹部と杉葉子さんの対談企画を実施する。君がアレンジしなさい」と命じられた。困った。杉さんのことはまったく知らなかった。調べていくと、アメリカ人と結婚してロサンゼルスのホテル・ニューオータニに勤めていた。
 
 たまたま来日していた本人とようやく連絡が取れて、指定された赤坂・山王ホテルに迎えに行った。現れた杉さんは光り輝く美女だった。背が高く品のいいファッションを纏っていて、優しい声で話された。「久末さんですか!?」、身が硬直した。車で3分の公社に案内して、広報課長に紹介した。「帰りも君が送りなさい」、「えっ!!」。
 
 公用車で杉さんを送ることになった。用事があって池袋に行くという。隣に座ったらなんともいえない香りが身を包んだ。池袋までの30分近く自分を見失っていた。なにかを話し合ったがまったく憶えていない。池袋に着くころ杉さんが「これから『文芸坐』で今井(正)先生の映画を観るの。良かったら一緒にいかが?」と言われた。
 
 その夜は家人と出かける約束をしていた。今ではそんな機会は無理しても逃さないが、若い子羊は女優・杉葉子さんの雰囲気に飲まれすぎていた。数日後にアメリカに戻るそうだ。車を降りて映画館に向う杉さんにお礼を述べて別れた。責任を果たした安堵感から一つ大きな息を吐いたかもしれない。妻の顔を見てホッとした。

 今日はその妻の誕生日だ。