プロスペクタス

 新聞や雑誌を読みながら、いつも思う。この記事はどんな読者を想定して書いているのか。もう一つ言えば、その読者はどんな格好で読んでいるのか。ソファーに寝そべり飛ばすようにページをめくって読むのか、時間をかけて熟読するのか。この編集・執筆前提を「プロスペクタス」という。30年前に始めて知った。
 
 かつて編集者で歴史研究家のM先生から習った文章の極意である。この視点が明確でなければ、内容は平板なものになる。そしてこの読者の年齢は何歳ほどなのかも重要なカギになる。これらのことは記事(文章)全体の構成をきちんと考えて書くことに尽きる。文学作品とはかなり質はことなるが、根底にあるのは同じことだ。
 
 正月、予定通り3冊の本を読んできた。①「考える力をつける本2」(轡田隆史、三笠書房)、②「ふるさとへ廻る六部は」(藤沢周平新潮文庫)、③「すべての人生について」(浅田次郎幻冬舎文庫)。①、③は昨日読了した。M先生の言葉を思い出したのは、①の影響。「読者は自分の経験枠でしか理解できない。分かりやすく書く」。
 
③は浅田次郎作品が江戸っ子三代目の視点から来ていると感じた。「饒舌型作家」といわれもするが、男気や潔さという思想が根を張っている。渡辺淳一との短編小説をめぐるやりとりは興味深かった。②はじっくり味わいながら寝る前に読んでいる。庄内地方への郷愁、東北を旅しながらの自己再確認がよく理解できる。