「明日はわが身」
「くも膜下出血で3週間ちょっと入院してた。もう原状回復で大丈夫」。「なんで分かったの?」、「朝起きたらなんだか体が重くて、そのうち言葉がしゃべれなくなって、手足も言うことを聞かなくなった。女房が運転して病院に来てすぐ検査した」。
昨夕病院ロビーで、同年代の知人がもう一人の知人に「入院していてさぁ、ようやく元気出てきたよ」と話していた。通りかかったのでいつものように「お疲れさまでした」と言って、「そういえば最近見なかったねえ、どうしたの?」と聞いたのだ。
「最初は何が起きたかの分からなかったよ。口はきけなくなるし、手足も胸もおかしくてさ。ひょとしたらこのまま死ぬのかなと一瞬感じたよ。少しでもそんな状態になったらとにかく即病院に来るべきだね。家の車で来たが、救急車の方が良かったかも」
体格の良い穏やかな人だが、一回り細くなりにこやかさも満面ではなかった。一時にせよ死と相まみえた痕跡が顔全体にかすかに残っていた。もうひとりの知人が言った。「明日はわが身。とにかく治って良かったよ」。三人で肯(うなず)き合った。