「1億総白痴化」

 3月最後の日だ。2~3月にかけてなんとも忙(せわ)しない日々を送った。1月後半からの寒暖の乱高下がボデーブローのように効いていた。ときどき修正したが険しい顔つきで過ごしてきたはずだ。周りの者に不愉快な思いをさせたが、体調の悪さがそれを上回った。今週に入ってようやく鈍いながらエンジンがかかりつつある。
 
 城山三郎「この命、何をあくせく」(講談社文庫)をナイトキャップ代わりに読んでいる。エッセイ集なので一篇ずつ読み進める。城山三郎のものは久しぶりだ。かつて出光興産店主・出光佐三氏との対談をアレンジし、4時間近くも同席した頃、城山さんはまだ40代だったと思う。壮年のエネルギーが人気作家に充満していた。
 
 写真は当時の月刊出光に載っているが、出光店主の横に座る自分は若くて細くて頼りない顔つきをしている。社会にまだ適応できていなかったのだ。対談のテーマは経済論、経営者論、文化論であった。日比谷の出光本社最上階の出光美術館には仙涯の水墨画のほか古今東西の芸術品がある。出光佐三氏の大きさ。
 
 いまの時代、「あくせく」まみれで足早に過ぎる。次から次へニュースが氾濫し、いつのまにか巻き込まれてしまう。インターネットによって世界同時に騒ぎが伝わる。政治家も芸人もTV向けのオーバーアクションと嘘・非難が多い。かの大宅壮一50年前にテレビ文化が「1億総白痴化」を招くと警告した。慧眼に改めて敬服。