母の誕生日

 6月2日は亡き母の誕生日だ。健在だったら94歳だ。母と同じ大正11年生まれのKさんがいる。まだまだ元気でよく食べ、頭脳は明晰で文章をゆっくりと読み上げる。たまにしかお会いできないが、母の姿を想像させてくれる。まことに微笑ましい。
 
 母は年に数回、着物姿で授業参観に来た。わたしが6年生の時、弟は5年、上の妹は3年、下の妹は2年生だった。忙しく教室を廻った。いつもと違うきりっとした顔をして、その姿が好きだった。父が小樽から反物を買ってきてプレゼントしたのだ。
 
 そのように父は母にときどき着物を買ってきた。父がもっていた祖母や母の写真はすべて着物姿だった。昔だからそうだったのかもしれない。父は着物姿に母や祖母を重ね合わせていたのだと思う。家族を愛することが人生のすべてだった。
 
 父が渡すたびに母は自分で着物を縫い上げた。若い頃から和裁が得意だったそうだ。子供たちの浴衣もつくった。娘と息子には晴れ着を調えてくれた。孫たちが生まれて、お正月に家人がその着物を出して着せた。写真をみて妹たちが喜んだ。