老老介護の悲劇

 東京・高島平から来てくれたAさんとお昼を食べていたら、店のテレビが興奮した声で「坂戸市浅羽で殺人事件、高齢夫が妻を、介護疲れか」と報じた。中華「鳳琳(ほうりん)」の来客数人がテレビの下にさっと行って画面を見上げた。
 
その一人が「浅羽ってどの辺だ?」とわたしの顔をみて聞いたので、反射的に「坂戸駅の左側、一本松の方」と答えた。かつて新興住宅地として売り出した地域だ。
 
 事件は、87歳の夫が介護していた85歳の妻の鼻や口を手で強く押しつけて殺害しようとした。夫が警察に電話、「介護で疲れた」と話したという。見ていた数人のうちのかなり老いている男性が「いやだ、いやだ」と言いながら席に戻った。
 
 老老介護の悲劇だが、こうした事件が全国的に珍しくなくなってきた。道路を行き交う介護施設の車は目に見えて増えている。かつて都内から坂戸に移ってきた人たちがいま80歳代になっている。わたしは自治会の中でも若手の方なのだ。
 
 昨日も病院の待合ロビーで高齢者の患者とその付添人に囲まれて座っていた。スローな動きが流れる中を、急ぎ足で駆け抜けていくのは若い看護師だけ。すでに社会全体がこんな形になっているのに改めて気づく。
 
 それにしても今回の事件はいつでも起こりうる現実だ。健康高齢をめざそうと国や市から伝えられるが、実態を解決するいま一つの具体策が足りない気がする。