69歳、ゴヘ、ゴヘ!!

 「ゴ・ヘッ(Go ahead)!」、船長が舳先(へさき)を陸に向け出発した。東京湾入り口に糞尿投棄する船長から聞くまで、魚雷にくくりつけたドラム缶に入っている特攻隊員の主人公は終戦を知らなかった。岡本喜八監督の映画「肉弾」の終盤シーンだ。主人公を引くロープは曳航途中で切れてしまい、20数年後に混雑する海水浴場に白骨状態で流れ着く。シュールな反戦映画だ。一昨日、NHKBSで見直した。
 
 郷里の叔父が再入院したと聞いた。かつてカッコイイ青年だった87歳は、病気を抱えながらも元気に動いていた。母の弟で、わたしの兄であり、父であり、先輩として尊敬してきた。この叔父が30歳頃だと思ったが、船長の免許を取るために一ヶ月間ほど集中勉強したことがあった。その横で下の叔父が無線士免許の勉強をしていた。そばに行って海図を知った。二人とも合格した。
 
 上の叔父が初めて操船した時、「ゴヘ、ゴヘ―」と大きな声で確認した。それから何十年も経ってから、ゴヘとは英語の「Go ahead」のことで前進の意味だと知った 。反語はバック(Back)。操船用語は英語で、どこの国でも通用するのだろう。なんと古平(ふるびら)の漁師たちも船内で英語を使っていたのだ。すこしだけ鼻が高く思えたものだった。
 
 今日は69歳の誕生日。12年前に治療を始めるとき、69歳を第一関門に設定した。母はこの年齢で亡くなったからだ。弟妹たちから「母さんより絶対長生きしてね」と念を押された。半分カラ元気で、半分不安の中で返事した。今ははっきり言える。「一日ずつを、一週間を悔いなく生きる。なあに、ゴヘ、ゴヘ、だよ」。叔父さんにも、ゴヘ、ゴヘ!! と応援する。