9月17日・回想

父が亡くなった日だ。札幌で「すぐ家に戻れ」の連絡を受けたとき、走ってきた小沢寮長の額に汗がふきでていた。暑い日の午後だった。その時点で何が起きたかを知らない。小樽に向う中央バスの窓から真っ赤な落陽を不安な気持ちで見ていた。
 
小樽で迎えに来ていた幼馴染のCちゃんから聞いた。車は小樽の街をぬけて暗闇の積丹・古平町に向った。二人とも無言だった。自宅に着いたら蝋燭と線香が点いていた。「まだ分からないじゃないか」と叫び、火を消した。叔父二人に静められた。
 
その時点から3日間の記憶がほとんどない。20歳の喪主は無反応になっていた。人は受け入れられない事態に落ちたとき、思考を停止する。つくり顔の薄ら笑いさえ忘れてしまった。一つだけ決めたことがあった。「大学をやめる」、自分に命じた。