電通「鬼十則」

【五、取リ組ンダラ「放スナ」殺サレテモ放スナ目的完遂マデハ】
 
   電通はこの項目を含む「鬼十則」を、社員手帳への掲載取りやめを検討している。同社広報部が昨日明らかにした。「企業風土の検証・改善は重要な改善の一つ」としている。女子新入社員の過労自殺事件で鬼十則に注目が集まっていた。
 
  この十則は電通四代目社長・吉田秀雄が昭和26年(1951年)8月に社員のために書き留めたビジネスの鉄則である。吉田は仕事の鬼、広告の鬼といわれた。ビジネス成功の要諦として、多くの経営者・ビジネスマンの胸に刻み込まれている
 
  新入社員だったPR会社で国内本部長に呼ばれた。上司は仕事の感想を聞いた後、小さなカードをメモ帳から取り出してわたしに渡した。「よく読んで、実行するように」。電通鬼十則」。実行がいかに大変かをまったく理解していなかった。
 
   ①仕事は自ら「創る」②先手先手と「働き続け」③「大きな仕事」と取り組め④「難しい仕事」を狙え⑤「放すな」⑥周囲を「引き摺り廻せ」⑦「計画」を持て⑧「自信」を持て⑨頭は常に「全廻転」⑩「摩擦を恐れるな」―である。
 
  焼け野原からの戦後復興、経済成長をひたすら目指した時代の信念だ。そうしなければ飯が食えなかった。人々が明日の幸せな生活を信じてひたむきに働いた時期でもあった。日本人の勤勉さ、誠実さがそれぞれの仕事で発揮されていった。
 
  以来65年間、それらの言葉が鈍った。不易流行、変わるものと不変のもの。吉田の「鬼十則」の精神は今でも確かな灯台の光だ。電通の失敗は灯台元暗し。クライアントに求めた新たな時代の企業風土づくりを自らは怠っていた。はだかの王様