さっぽろ雪まつり

 30年前のさっぽろ雪まつり開幕前日昼、大通会場にいた。学生時代の恩師A先生が「見たいんでしょう」と声をかけ、「別に」とか答えながら3丁目から7丁目まで歩いた。先生の言葉は禅問答のようで、答えるには雪像をよく観る暇がなかった。
 
 丸井今井で昼ごはんをご馳走になって外に出たら、陽が傾いていた。先生が「これから動物園に行こう」というので仕方なくうなずいた。雪が多い年で革靴は滑ったし、円山公園では雪にぬかって歩きにくかった。靴もズボンもぬれてしまった。
 
 先生はどんどん進み、動物園に入ってしまった。冬は屋内展示だった。しばらく見物しながら過ごしたが、先生はほとんどチンパンジーだったかオランウータンかの前にいた。ときどき表情を変えながら「えらいね~」などと声をかけていた。
 
 ズボンと靴下が乾いてきた頃、再び雪中を漕いで大きな通りに。先生は「良かったね。さようなら」とそのまま帰っていった。暗くなった札幌の街に大通公園だけが照明で膨らんでいた。そんなさっぽろ雪まつり。誘ってくれる人はいない。