「ぱたから」カード

 「ぱたから」と書いたカードが食卓のところに貼ってある。誤嚥を防ぎ、唇の筋肉を強くするために、「ぱ・た・か・ら」と声を出しながら繰り返す。「最近著しく滑舌が悪くなった」(家人)オレに練習しろとカードを作ったのだ。「ぱたから、」か!?
 だいたい家人は自分の言葉がオレに通じない時には、「ちゃんと聞いて」と厳しく指摘する。俺が用事を伝えると、「なに言っているか、分からない。はっきり発音して」と切り返す。夫婦間のコミュニケーションが不成立の場合もしばしばある。
 腹が立つ。こっちだって考えながら話しているんだ。それに対しては、「その説明の部分が分からないから突然意味不明のことを言う」と反論する。頭の中の言葉と口から出る言葉が自分ではつながっているが、つい省略しているらしい。
 お互いに不愉快な時代がつづいてきたが、今回の入院騒ぎてさらに滑舌が衰えてしまった。認めざるを得ない。怒りながら「ぱたから」カードを見ながら、唇を開いたり引いたりしている。改善の兆しは依然見えない。こんなのもリハビリか。