狭山湖フラクタル*

 狭山湖はまだ紅葉ではなかった。ととろの森となづけられた木立のなか湖を展望できる場所に駐車した。娘が早くから来てくれて家人と二人でミニドライブに連れ出してくれた。家人は携帯酸素ボンベと車椅子を車に詰め込んだ。
 医師が入院以来慎重で、できるだけ心臓に負担をかけないよう指示されている。これからの寒気にそなえて体調をできるかぎり持続させるのが目的だ。わが身のために続けているのだが、抑え込まれたストレスが積もってどす黒くなっていく。
 狭山湖の水面では空の青すぎる光が反射して細かな漣(さざなみ)のように輝いていた。山と水と微風がつくるフラクタルが、少しずつ胸底のストレスを消していく。30秒ばかり自然の流れに同化した。明日から頑張れる。娘も家人も深呼吸。
 *フラクタルは自然のおりなすゆらぎ、そよぎの意味で使っている。本来は織りなす幾何学模様のながれのような状態を指す。