米寿で現役

 「やあ!久末君、元気でしたか」、M先生の声は活気に溢れていた。今年も山口・防府のかまぼこ「白銀」を贈っていただいたので、お礼の電話をした。先生から40年間郷里の名品が届く。「先生、米寿では?」、「実はなったんだよ、88歳に」。
 M先生は歴史研究家で、わたしが新入社員のときから指導を仰いできた。なにか理由をつけては意見を拝聴し、自宅まで押しかけて仕事上の知恵を借りてきた。「教えるのではない、共に考えよう」との先生の姿勢に恐縮し、尊敬してきた。
 先生はご夫妻で土日に東松山の栗林に通い、畑仕事をしながら著作の想を練っていた。中国古典、吉田松蔭、明治の企業家をテーマに多数の著書を発表。その読者の一人として本を渡され、人の生き方、志の大事さを教えられてきた。
 「最近、ボケてきて認知症になってきた。講演をまだ続けているが、歴史上の人物の名前が出てこない。それで一所懸命にメモを作って迷惑がかからないようにしているんだよ」。手書きの太いペン文字が浮かぶ。家人が一番好きな文字だ。