上野界隈

昨日の毎日新聞コラム「余録」は次のような書き出しで始まっていた。
パリのブローニュの森フィレンツェのカシネ公園、ベルリンのティーガルテン公園といっても、花の日曜日の上野にはかなわない」。東京・上野公園の桜をこうほめたのは明治時代に来日した米国の女性旅行家、E・R・シッドモアだ▲彼女は「桜のシーズンともなると日本人の花や風景に対する情熱がひときわ燃え立つ」と記す。そして宮廷の観桜会から上野のやや上品な花見、隅田川沿いの向島でにぎやかに盛り上がる庶民の花見までを温かな目で描く」
 
相も変わらず人が多い上野公園だが、桜はまだみじんもその気配を見せていない。東京国立博物館で開催中の「ボストン美術館・日本美術の至宝」を昨日、友人と二人で見学してきた。フェノロサ岡倉天心らが蒐集した日本の奈良時代から江戸時代末期までの曼荼羅図、菩薩像、絵巻、屏風まで70点の展示である。さすがに1,000年以上前の作品は色がくすんでいて、元の色彩が想像もつかないほどに時間の経過を思わせる。平安時代の絵巻あたりから人の動きが描き込まれるようになり、当時のアニメを思わせる表現もある。控えめなユーモアには当時の芸術家の心境がうかがうことができた。しかし、マスコミによる大宣伝ほどの感動は受けないうちに出口まで来ていた。
 
帰りに友人と二人でアメ横通りに入り、安居酒屋で煮込みを食べながら喉を潤した。ゆったりとした時間が流れて居心地のよさに、ついつい長話になってしまった。高校時代の話から消費税増税の政局論まであっちに飛び、こっちに戻りの懇談だった。締めはうな丼(並500円、ダブル900円)。こんなうれしい一日はそうそうあるものではない。その友人からもらったカステラは「格別美味しかった!」と、今朝、お礼のメールを送った。