ヒサスエ・ノート(桜)

各紙コラムとも『桜』をテーマにしている。引用の仕方を、今後の自分の参考に記録しておく。
 
読売「編集手帳」―◆卒業式目前の震災発生で、離ればなれになった宮城県の中学卒業生が「2012年3月11日に同級会を開催します」と携帯メールを交わし、再会を誓い合っているとの記事もあった。先日、叶ったはずだ。その場に居合わせなくとも情景は想い描ける◆〈さまざまの事おもひ出す桜かな 芭蕉〉。平年より1週間近く遅れて桜前線、北上中。東北まで追いかけて行きましょうか。
 
日経「春秋」―北面の武士であった佐藤義清が世を捨て、西行に生まれ変わった。西行は生涯、桜を愛し続けたという。「散るを見て 帰る心や 桜花、むかしに変はる しるしなるらむ」――過去は惜しんでも悔やんでも元に戻らない。去年と今年の花の間には丸一年の時間が、年輪のように刻まれている、の意。
 
産経抄」―夕闇の桜花の記憶と重なりてはじめて聴きし日の君が血のおと〉。2年前の夏、64歳で世を去った歌人の河野(かわの)裕子さんが、女子大生時代に作った▼夫となった永田和宏さんは、歌人であり細胞生物学者でもある。その永田さんと俵万智さんらが選者を務める「~家族を歌う~河野裕子短歌賞」が、小紙と河野さんの母校、京都女子大学によって創設された。▼ただこの賞の特徴は、中高生を対象にウェブサイトで受け付ける、「青春の歌」部門だろう。河野さんは大学卒業後、しばらく滋賀県の中学校で教諭を務めている。
 
毎日「余録」―咲き誇る都心の桜を見て、昨年、見せてもらった短編映像を思い出した。福島県出身の映画プロデューサー、今泉文子さんが撮った「三春の滝桜」だ▲福島県三春町の丘に立つ紅枝垂れの桜は推定樹齢1000年。毎年、30万人が晴れ姿をめでに訪れるが、昨年はいつもの年ではない。人々の足が遠のきそうだと知ってスタッフとともに撮影を即断したという▲「微速度撮影」を続けた。時間を早回ししたような映像は、わずか10分。晴れの日は穏やかに、荒天の日は風雨や雪に耐え、昼と夜を繰り返すごとに桜のつぼみは膨らみ、ほころび、満開を迎える▲映像はライトアップされなかった老樹の後ろに広がる星空で終わる。背景に流れるのは音楽だけ。被災地を見せるわけではない。原発を声高に糾弾しているわけでもない。今泉さんの上映会が終わると「みんなしんと静かになる。涙をこぼす人もいる」。その気持ちは映像を見るとよくわかる。
 
天声人語」(昨日)ー終戦の年のきょう、戦艦大和東シナ海に沈んだ。生還を期さない沖縄への出撃は「水上特攻」と呼ばれた。出撃前日、瀬戸内海で訓練中の艦上で「桜、桜」と叫ぶ声が上がったそうだ▼奇跡的に生き延びた吉田満の『戦艦大和』によれば、乗員は先を争って双眼鏡に取り付いた。「コマヤカナル花弁ノ、ヒト片ヒト片ヲ眼底に灼キツケントス……桜、内地ノ桜ヨ、サヤウナラ」。67年前の、この国の現実である。
 
 
*「朝日求人」に内田樹(たつる)氏の「キャリアの扉にドアノブはない」第二回目が掲載されている。現在の学生の「ミニマム至上」思考・行動を厳しく指摘している。同感!