蜘蛛の糸

「御釈迦様は地獄の容子を御覧になりながら、このカンダタ)には蜘蛛を助けた事があるのを御思い出しになりました。そうしてそれだけの善い事をした報(むくい)には、出来るなら、この男を地獄から救い出してやろうと御考えになりました。幸い、側を見ますと、翡翠(ひすい)のような色をした蓮の葉の上に、極楽の蜘蛛が一匹、美しい銀色の糸をかけて居ります。御釈迦様はその蜘蛛の糸をそっと御手に御取りになって、玉のような白蓮(しらはす)の間から、遥か下にある地獄の底へ、まっすぐにそれを御下(おろ)しなさいました」――芥川龍之介の有名な小説「蜘蛛の糸」の一節である。
 
今朝の日経社会面に「クモの糸の調べ 深く柔らか―バイオリンの弦に」との囲み記事がある。奈良県立医大の大崎茂芳特任教授が製作し、クモの糸の弦は一般的な弦よりも強く、深みのある音が出ることを解明した。プロのバイオリニストが名器ストラディバリウスに弦を張って演奏する機会もあり「今までにない音色で、表現の幅が広がる」と絶賛したという。これこそ「フラクタル(ゆらぎ)」の極みの一つであろう。
 
 
「・・・その途端でございます。今まで何ともなかった蜘蛛の糸が、急にカンダタのぶら下っている所から、ぷつりと音を立てて断(き)れました。ですから カンダタもたまりません。あっと云う間もなく風を切って、独楽のようにくるくるまわりながら、見る見る中に暗の底へ、まっさかさまに落ちてしまいました。後にはただ極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと細く光りながら、月も星もない空の中途に、短く垂れているばかりでございます。」ーー小説はこう終わっている。
 
一方、地上から天空に伸びたスカイツリーのライトアップの模様が、昨夜、TVで流れた。隅田川をイメージした水色の「粋」と、優美な江戸紫の「雅」の2種類だという。やや抑え気味のブルーのスカイツリーは画面で見ていて美しいと思った。今度、本物を見に行かなくちゃ!!スカイツリー蜘蛛の糸では作られてはいない。