ハナミズキ

 産経新聞産経抄」の書き出しから―。
 
津本陽氏の『椿と花水木(はなみずき)』はジョン万次郎の数奇な運命を描いている。遭難後、捕鯨船に救われ米国に渡った万次郎が初めて見た花がハナミズキ(ドッグウッド)だった。米国人女性との間に男の子が生まれたらドッグウッド、女の子ならカミーリア(椿)にしようと約束する。▼小説の題の由来だが、それほどにハナミズキは米国を代表する花のひとつである。日本がワシントンに寄贈した桜の返礼として大正4(1915)年、東京に苗木が贈られてきた。以来、日本でも春から初夏の街に欠かせない花として定着した▼このハナミズキが再び「日米友好」の象徴の役割を担うことになった。30日の日米首脳会談後に発表された共同声明の付属文書に、大震災の被災地などに3千本を贈られることが盛り込まれた」
 
 ハナミズキの木を庭に植える家庭が増えていて、近所でもよく見る。華麗な花である。万次郎は男児の名にと思ったようだが、ハナミズキという日本語は柔らかなイメージでやや女性的だ。坂戸市内には「花みずき」という地名の住宅地がある。緑の多いきれいな街並みに、ハナミズキの花はよく似合う。
 
一方、ドッグウッドという呼称は久しぶりに聞いた。約25年前に仕事でミシシッピー州フロリダ州15人ほどのグループで行ったことがあった。コーディネーターの計らいで、州議会を見学して知事と面会したり、地元経済界の歓迎会に出たりした。わが国がまだバブルの最中の時代である。すでに崩壊直前の時点だったと後で分る。
 
  バスが進むミシシッピーの道路脇にはハナミズキの花が満開であった。見た目はほとんど桜であった。自分はタドタドしい英語で「この花の名前はなにか?」と隣の米人女性に聞いた。「ドッグウッド」と答えたが、一瞬、理解できなかった。ドッグがうまく頭に入らなかったのだ。その後、食事のときに「キャットフィッシュのフライ」が出て、キャットフィッシュ=なまずであると教えられた。ミシシッピー川で捕れたものだという。それで「ドッグ」と「キャット」が腑に落ちた。キャットフィッシュは白身で淡白な味だった。