EUが揺れている

   以前、毎日「余録」で「完璧な欧州とは」というジョークが紹介されていた。
「イギリス人のように料理上手、フランス人のように謙虚、ドイツ人のようにユーモアに満ち、イタリア人のようにきちょうめん、オランダ人のように気前よく、ギリシャ人のように組織立って」▲他にも地味なスペイン人や技術に強いポルトガル人、融通がきくスウェーデン人やおしゃべりなフィンランド人などが並ぶのは、それぞれの国民性への当てこすりだ。もちろん実際は逆だと、からかい合っているのである」
 
今朝の各紙コラムともに仏大統領選でサルコジ氏が敗れ、オランド氏が当選したことを取り上げている。朝日「天声人語」は「オランド氏も、前途は多難である。財源なしに『明日伸びる』戦略は立てられない」と指摘している。
 EUがまさしく揺れている。今年に入ってからの賢人たちの発言を記載しておく。
 
「オピニオン/インタビュー」(朝日1/18付)で、経済学者のダニエル・コーエン氏は、「欧州は90年代の日本のような『失われた10年』に向かって出発したのだ。当分成長をあきらめなければならない。そうなると、社会のもろさが見えてくるだろう。停滞とうまくやっていくことができない」、「たとえば極端な主張をする勢力があちこちで台頭して、民主主義も危機を経験している。何もかもが厄介な空気を醸成している。不寛容で不幸な社会」、「貧しい人がたくさん働くのは、まさに貧しいからだ。余裕のある者も同じくらい働くべきだという考えはばかばかしい。」「中毒症状から抜け出すには、自分たちの欲望を操っている法則を理解し、行動しなければならない。だが残念ながら、人間がそうした法則を理解するのはいつも時代が次に移ってからだ」、「自分が何者か、遺伝子によって決定されていると考えるようになっている。より良い人間になるために努力しなければならない、という考え方。これは文明の本質だが、それがたぶん後退しつつある」、「人間には自由意思があるという考え方も後退している。われわれの行動の大半は、遺伝子で決まっていると言われるようになった」と語っている。
 
「指導者―考③第一部識者に聞く」(読売2/2付)で、ジャック・アタリ元仏大統領特別補佐官は「政治を理解する上で2人の重要な理論家がいる。マルクスシェークスピアだ。前者は歴史の大局観を説き、後者は情念や暴力に操られる人間関係を洞察した。指導者は『歴史』と『人間』を知る必要がある。歴史の大きな流れをつかみ2030年先を見据える力だ。世論の反発に遭ったとしても、信念を持ち、説得にあたる覚悟が求められる。指導者にとって最悪の選択は大衆迎合だ。・・・欧州連合は歴史の流れに沿った事業だ。将来に向け、次の選択をすべきだ。①ユーロー危機は経済成長によって切り抜ける②そのためには欧州規模の大事業に着手する③財源はユーロー共通債を新設して充てる④『ユーロー圏財務相』を設ける。つまり、連邦化である。危機が行動を迫っている」と提言している。
 
「指導者―考⑨作家・佐藤賢一氏」(読売2/11付)から。「変化の時代は指導者を使い捨てにする傾向を持つのではないか」、「新しい政治勢力は実績がないため、民衆を安心させようと高い理想を大盤振る舞いする。だが、言った以上はやれという不満が出て、現実離れした方向に走り、無理が生じる。人権宣言は今読んでも素晴らしい人類の宝だが、フランス革命では災いの種にもなった」、「政治は言葉によって成り立っている。言葉のない政治はありえない。だが、調子に乗って吐いた言葉は、天に唾するように、為政者を往々にして苦しめる。指導者は、そのことも肝に銘じておくべきであろう」。