ハマコー逝く

   忘れてしまうほど長く降らなかった雨の音を聞きながら、ぼんやり新聞を眺めている。クーラーは入れずに窓を開けたままだ。金網越しに柔らかく風が入ってきて、ネコが出窓で安らいでいる。「ネコはいてくれるだけで、ありがたい」と言った誰かの言葉、ああ、映画「レンタネコ」で監督・脚本を担当した荻上直子さんだ。この雌ネコは幼いときから小生の胸の部分に横たわる。たぶん心臓の音が聞こえるからだろう。老齢13歳半にもなって、まだ偽母親の胸の鼓動が忘れられないようだ。
 
 テレビも新聞もロンドン五輪の結果を連呼しているが、今日の雨音には負ける。昨日観ていた女子マラソンエチオピアケニアなどアフリカ勢の圧倒的な強さは人間を越えている。日本選手に対抗しろという方が酷だ。あの変動する天気や、危険な石畳のカーブばかりの変則コース、名所巡りを意識したコース設定など、ロンドンコースは走者に気の毒な二時間余だった。もはや男子並みのスピードマラソン時代になっているのに、山下佐知子が監督では行く前から、勝負あった―だった。そんな感じを持った。
 
 今回、自分なりに楽しんだのはアーチェリーとバドミントンだ。前者は完全に個人競技であり、70㍍先の的に精神集中するとき、それぞれの選手がみせる儀式というか矢を引いてから離すまでの個性が興味深かった。スローで見ると風の中を矢がグラグラしなりながら飛んでいくのには驚いた。アーチェリーを始める年配者が増えるかも・・・。バドミントンは体力と知力の限界を超えた激しいスポーツであることが改めて分かった。藤井と垣岩のプレーは満点以上で、優勝した中国ペアに肉薄してわれわれに感動を与えた。
 
 ハマコー(浜田幸一氏)の死去を昨夜、ネットで知った。30年ほど前、親戚と一緒に木更津港まつりの 「やっさいもっさい踊り」を観ていたら、どこか見たことのある小父さんが上品に行列に付き添っていた。ハマコーだった。大人しい、優しい顔つきをしているので、最初は気づかなかった。それまでテレビで観ていたハマコーとは別人物のようだった。故郷は人間をこれほど穏やかにするのかと思ったものだ。こうした硬軟両面の振幅があれほど大きな人は今では少なくなった。野田首相も谷垣総裁も胸突き八丁、大瀬戸際に立っている。結果見ずして「ハマコー逝く」。