「トラ・トラ・トラ !」

   昨日午後、テレビ東京で映画「トラ・トラ・トラ!」を観た。1970年公開で、米国・日本の合同スタッフ・キャストで製作された米国映画だ。真珠湾攻撃にいたる日米両政府の立場と動きをリアルに描いている。日本では高い評価を受けたが、米国側の興行成績は不振だった。日本側の視点をかなり取り入れて、真珠湾奇襲を防ぐことができなかったのは米国政府、とくに米軍上層部の責任として描いているからだ。70年公開だから、ベトナム戦争真っ只中という時代背景も影響したと思われる。
 
 山村聡扮する山本五十六連合艦隊司令長官は、どこか西郷隆盛風に感じて少しイメージが異なっていた。ただ、昔の大将はこのように部下の話しを冷静に聞き、最後に毅然として作戦の決断をしたことが伝わってきた。いかなる場合においても、戦時においては上官の命令がすべてなのだ。南雲忠一・海軍中将(第一航空艦隊司令長官)の東野英治郎の演技も渋いものであった。炊事兵の渥美清と松山栄太郎が交わす日付変更線のエピソードも効果的だった。
 
 この映画製作に当たって、日本側監督は黒澤明が指名され、黒澤プロダクション設立間もない時期であったため熱心に取り組んでいく。アメリカ側監督は「ミクロの決死圏」「海底二万哩」のリチャード・フライシャーが起用された。この両者は折り合いが悪く、プロデューサーが幾度も調整に入ったといわれている。最後は、黒澤は「病気を理由」に降板となる。真相は不明のままだが、この解任騒動後に黒澤は自殺を図っている。黒澤が降板したため、新たに舛田利雄深作欣二が日本側監督として起用され撮影を続けた。
 
 約20年前、米フロリダ州に行ったときに空母「レキシントン」を見た。軍港であるペンサコーラの岸壁に静かに横たわっていた。「レキシントン」は当時、訓練用空母としてまだ活躍していた。その後、歴史的記念物として展示され、博物館になっているという。太平洋戦争は戦闘機の戦争でもあった。巨艦主義にこだわる日本軍部の作戦を打ち砕いたのが、空母の戦闘爆撃機による広域攻撃であった。昨夜のNHKスペシャル「戦場の軍法会議」でも、明らかになったのは戦略性が破綻した内向き志向の日本軍の姿だった。あの戦争で犠牲になった若い兵士たちに同情を禁じ得ない。