鈴木雅明氏と「バッハ・メダル」

    朝日新聞「ひと」欄に、指揮者でチェンバロ奏者の鈴木雅明(58)が取り上げられている。バッハの作品普及への功績で、この音楽家が晩年に活躍した独東部ライプチヒ市で名誉ある「バッハ・メダル」を受賞した。「ひと」欄には「アジアにおけるバッハの伝道師」と書いてある。鈴木氏は「バッハを通じて世界と対話させていただいてきた。恩恵を受けたのは、僕の方です」と述べている。受賞が決定したのは、4月16日のことであった。
 
チェンバロとオルガンのソリストとして国内外で演奏活動を行っている。1990年、オリジナル楽器アンサンブルと合唱団で構成される「バッハ・コレギウム・ジャパン(BCJ)」を結成した。音楽監督として、バッハの教会カンカータ全曲シリーズや受難曲などの録音を精力的に行っている。鈴木氏の指揮や演奏によるバッハの作品のCDは世界的に高く評価され、「レコード・アカデミー大賞」の部門賞を受けている。日本におけるクラシック録音で最も権威ある賞の一つである。
 
コラムの中で鈴木氏はこう語っている。「信仰は大切なものを失った人々に、生きる気持ちを取り戻してもらうためのもの。亡き人ではなく、今を生きるすべての人のためにある」。東日本大震災を経て、そう心に刻み直したとある。鎮魂の「G線上のアリア」が日本中に日本中に響いていた。「でも、ちょっと悔しい。そんな曲、『G線』だけじゃないだけどな」。バッハは肉親の死を受け入れ、日常を濃密に生き、生ある喜びをたゆまず音にしてきた。そのことを語っているのだ。
 
小生はこれまで2回、鈴木氏の生演奏を聴く機会があった。音楽は素人なのでただ聴くだけだが、バッハらしい正統的な演奏で深く感動した。入院中にはさまざまな指揮者・演奏家によるバッハを聴いていた。我が家のCDや、友人が貸してくれたカセットテープをベッド上で繰り返し回していた。本田路津子の賛美歌も擦り切れるまで聴いた。数年間はそんな状況であった。鈴木氏はクリスチャン(プロテスタント)であり、日本キリスト改革派教会に属している。宗教改革の「改革」である。