「女の心は最後まで分からない」

 昨夜、寝る前に城山三郎氏著「打たれ強く生きる」(新潮文庫)をパラパラと読み返していた。一日の終りになんとなく眺めてから眠りたい、そんな本の一冊だ。「打たれ強さの秘密」という個所で、作家・渡辺淳一氏について書いてある。城山氏と渡辺氏??という感じだが、城山氏は渡辺氏の打たれ強さの理由をこう述べている。
 
 「雪は悪魔」だという北海道出身の渡辺さんは、その悪魔におびやかされ、苦しめられて育った。苦しみや不安は人間を鍛え、ねばり強さを生む。次に、渡辺さんは外科医として数多い死に立ち会ってきた。「死ねば無である」ことや、人間がいかに無力な存在であるかを、実感してきた。そして、基本に忠実だ。渡辺さんがゴルフに強いのもそのせいだ。
 
 渡辺さんはまた恋愛小説の名手であり、女性に詳しい。それでいて、「女の心というものは、ほんとうのところは最後までわからない」という。また、「女性は血や痛みによく耐える」ともいう。それはただ異性についてだけではなく、どんな人間にも、強みや、不可知のものがある、という見方なのではないか。
 
 女性を書く、あるいは書けるのが渡辺氏ならば、対極にあるのが城山氏ではないだろうか。(司馬遼太郎氏もそうだが・・・)。夏の初めに知り合いが日本橋小網町「喜代川」に連れて行ってくれた。このうなぎ屋さんは渡辺氏が書いた小説「化身」の舞台になった店だ。ヒロイン・霧子が食事をした部屋がある、と女将が聞かれて答えた。