「口ごもらずに、ゆっくり語れ」

 愕然とした。自分の声に対してだ。二ヶ月前に収録したU先生へのインタビューを聞き直していた。U先生は元大学教授だから話す内容は難しいものの、言葉遣いは的確で、かつ明瞭であった。それに比べてわが声はべったりとした北海道訛りで、短い質問にもかかわらずなにか締まらない印象に聞こえる。口がモゴモゴしているのは加齢現象かもしれないが、まるで切れがない。そのことに失望したのだ。
 
 若いときと違って、インタビューのときに小生はほとんど多くを語らなくなった。先輩たちに鍛えられた「流れるようなインタビュー」を密かに心がけていたからだ。病気で丸7年間このような真剣勝負のやり取りから遠ざかっていた。その間にピンがずれて、鋭さがなくなった。それだけではなく、「間」というか「妙」の取り方が恐ろしく劣化している。これからもう一度リハビリを行って、円滑なコミュニケーションを図れるようにしたい。
 
 テレビでのコメンテーターや講演を多く行い、明瞭さでは定評のある先輩に聞いたら、こう話してくれた。「方言はいまさら無理に直さなくても良い。年齢を重ねる度にむしろ方言は口に出てくる。そのほうが自然なのだ。ストレスが解放される分、方言が出ていると解釈しても良い」。まず、そのように慰めてくれた。この人はいつも勇気を与えてくれる。だから、もう40年以上もお世話になっている。
 
 「しゃべり方に極意はないが、自分ははっきりと口をあけて話すことを心がけている。若いときに先輩から『口ごもるな』とうるさく注意された。語尾までしっかり伝えきることだ。もう一つは慌てずにゆっくりと語ること。これは相手との関係にもよるが、相互理解をきちんと行うとの意味だ」。先輩はこう述べて、にこりと笑った。思わず小生も微笑んでしまい、明日から少しは生き生きと話すことができそうに思い込んだ。「久末くん、心を大きく開いて!!」。先輩はそう結んだ。