野田・クリントン会談の背景

   ロシア・ウラジオストクで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)でもっとも注目すべきは、野田首相クリントン・米国務長官との会談であった。日本のエネルギー政策見直し論議について、クリントン長官は「(原発ゼロも選択肢に含む日本政府の新しいエネルギー政策について)米国は日本国内の議論に関心を持っている」と表明した。首相は原発ゼロを含む新エネルギー戦略を近くまとめることを説明した。野田・クリントン両氏は「原子力政策は日米関係にも重要だ」として、緊密な意見交換が必要との認識で一致した。
 
首相は会談後、原発政策について「米国からも関心が提起された。緊密に意思疎通しなければならない」と記者団に述べた。日米両政府は、原子力の平和利用のための協力を定めた日米原子力協定を結んでいる。米政府は原発推進の政策は変えておらず、日本がこれまでの原子力政策を転換すれば、米国の原子力政策、日米の技術協力、米の原子力産業にも影響が出かねない。これらのことから、米国側が野田政権の脱原発政策について「関心」を示したものだ。
 
 今週、日本政府がまとめる新エネルギー政策で「原発ゼロ」に言及した方針を決定する。まさかこれで選挙大敗の流れを覆せると思っていたら、あまりにも浅薄な政治判断であろう。「選挙対策国益を売るまさに売国の方針決定だ」との声も出ている。折からエネルギー安保の観点から米国からも「ゼロ」への強い懸念が示された。野田首相はもう重要な外交・内政上の政策に意欲を語るべきではない。総選挙大敗を前にしてレームダック化が現実的になっているからだ。
 
 既に米国は「第3次アーミテージ・ナイ報告書」で原発推進維持を求めているが、今回の野田・クリントン会談でも強い懸念が出された。米国は原発開発のほとんどを日本に依存しているからだ。ウエスティングハウスは東芝傘下に、ゼネラル・エレクトリクスは日立傘下へと編入されている。米国は日本を信頼し、日米原子力協定の下で原子力技術の日本移転を進めてきた。これがアレバと共に東芝、日立が世界の原子力産業を3分化する流れを形成した。クリントンの「関心表明」はこうした事情を背景にしているゆえに、重い。米国は野田にクギを刺したのだ。「原発ゼロ」の決定は、米国との同盟関係を揺さぶる材料になりかねないからだ。