「つまらん!お前の話はつまらん!」

大滝秀治さんが亡くなって、一日中テレビであの独特の顔と声が流れていた。けさの読売「編集手帳」の締めが良い。「出来の悪いコラムを書くたびに、大滝さんの声を幻聴として聴いていた時期がある。殺虫剤のCMが流れていた頃である。<つまらん!お前の話はつまらん!>。あの声に包まれると、ほろ苦い自嘲の記憶さえもほのかに温かい」。
 
たしかにあのCMはインパクトが強かった。大滝さんと岸部一徳のコンビが絶妙だった。岸部一徳が演技派として認められ大活躍してきたのは、あのCMゆえだと思っている。まあ、他人のことはどうでもよい―。小生はこのブログを書いているとき、<つまらん!お前の話はつまらん!>と言う声が聞こえる。札幌にいるA先生の声だ。昔から知ったかぶりをして得意げに書くと、一発、強烈な逆襲を浴びた。
 
先日夜、十数年ぶりに電話が来て少しの時間だが話ができた。かつて、「耳が遠くなってきて補聴器を使ったが合わないので、電話はかけないでメールにしてほしい」との連絡があった。一昨年、札幌に行ったときに顔を見たが、80代に入った頃だった。いつも凛としていたが、温かく見守ってもらった。40年前の学生時代にはいま考えると顔が燃えてしまうほど恥ずかしい振る舞いを繰り返していた。
 
東京に出てくるきっかけを作ってくれたのもA先生であった。一月に入ってからあわてて卒業論文に取り組み、先生のタイプライターを借りて3枚の文章をようやく完成させた。先生は3分ほど読んで、「いいでしょう、ただ、10枚ほどにしなさい」と言われた。書くのは限界だったので、次々と改行して9枚にした。また3分ほど見つめて、「分かりました」と受け取ってくれた。史上最短の卒論であった。あとからずいぶん審査でもめたとのうわさを聞いた。
 
ブログを書くたびに、<つまらん!お前の話はつまらん!>。A先生のそんな声が聞こえる。ただ、先生は「お前」とは決して呼び捨てにしない。