「キャッツ ポッサムおじさんの猫とつきあう法」

 おととい一冊の本と運命的な出会いをした。「キャッツ ポッサムおじさんの猫とつき合う法」(ちくま文庫)だ。T.S.エリオット著、池田雅之・訳。世界中で公演され、大人気のミュージカル「キャッツ」の原作である。15編の詩からなる。いま、「猫本」といわれる猫についてのさまざまな本が売れている。その走りになったもので、まさしく「猫の時代」なのだ。
 
 この詩集の最初に「猫に名前をつけること」がある。「猫に名前をつけるのは、まったくもって難しい。休日の片手間仕事じゃ、手に負えない。寄ってたかってこのわしを、変人扱いしとるけど、いいかね、猫にはどうしても、三つの名前が必要なんだ」と始まっていく。「家族が毎日使う名」、「もう一つの格別の名前、威厳のある呼び名」、そして「人間様には思いもつかない名前、猫にはちゃんと、わかっていても、絶対打ち明けたりしないもの」。この三つの名前のことだ。
 
 今からおよそ40年前に神田にあった英国図書館分室(忘れた?)で原本を見つけ、仕事の合間に何日か通ってメモを取っておいた。その後、友人数人と同人誌を発行することになり、その詩を日本語に置き換えて自己流にアレンジして掲載した。その誌名は「兆(きざし)」といい、6号まで続いた。同人はみんな30歳前後で、当時の文学作品ブームもあって熱い情熱をもって取り組んでいた。表紙は版画家のS子さんが描いてくれた。それぞれが小説や評論、詩作を発表して合評会もたびたび開いた。今から考えると、よくも発行できたものだ。
 
 発行のたびに一人数十冊ずつ引き取ったが、押入れの隅に積み上げられていった。家人が「荷物の置き場が足りないから整理したら」と何回か廃棄を求めたが、「これは30年後には凄い評価を受けることになるのだから我慢しろ」と拒否してきた。あれから40年近く経つがいっこうにそのフシはないままだ。ただ、自分の中では一つの勲章であり、証しでもある。ところで「猫には本当に三つの名前があるのか?」。我が家の二匹の猫に聞いてみたが、「そんなこと知らないよ。『兆』なんて見たことないニァン。ママがどこかに処分したのではないの!?」、プイと答えた。