「老人漂流社会」

昨夜の「NHKスペシャル」で「老人漂流社会、終(つい)の住処(すみか)はどこに」が放映された。NHKは昨年から「無縁社会」をキーワードに何本かの特番を製作してきた。自分も2、3回は観てきた。今回の番組もその延長上にあり、ドキュメンタリーを通して悲痛な現実が突きつけられた。われわれ日本人が「失っていくもの」が、明らかになってきた。番組のおよその流れはこうだ。
 
――超高齢社会を迎え、ひとり暮らしの高齢者(単身世帯)は、今年500万人を突破。「住まい」を追われ、“死に場所”を求めて漂流する高齢者があふれ出す異常事態が、すでに起き始めている。ひとりで暮らせなくなった高齢者が殺到している場所のひとつがNPOが運営する通称「無料低額宿泊所」。かつてホームレスの臨時の保護施設だった無料低額宿泊所に、自治体から相次いで高齢者が斡旋されてくる事態が広がっているのだ。
 
しかし、こうした民間の施設は「認知症」を患うといられなくなる。多くは、認知症を一時的に受け入れてくれる精神科病院へ移送。症状が治まれば退院するが、その先も、病院→無届け施設→病院・・・と自らの意志とは無関係に延々と漂流が続いていく。ささいなきっかけで漂流が始まり、自宅へ帰ることなく施設を転々とし続ける「老人漂流社会」に迫り、誰しもが他人事ではない老後の現実を描き出す――
 
取り上げられた老人の一人ひとりは、高齢化していく自分たちの姿でもある。「人に迷惑だけはかけたくない」と語りながら、絶望的に悲しげな顔をする男の老人。その複雑な表情がすべての不安を表していた。終盤に登場した59歳の元介護ヘルパーの女性がこうした老人たちのお世話を始めた。「人を助けてあげて、いつか自分も助けてもらう」という言葉と彼女の姿勢に一つの救いを感じた。
 
この活動は新しい共同体=「相互扶助」の小さな試みである。こうした積み重ねは大事だ。われわれが最低限の「人間の尊厳」すら守れない社会にしてしまったからだ。