「幸せ見本」のミッション

毎日新聞金曜日の夕刊コラム「晴れのちちょっとヒマ」を楽しみに読んでいる。筆者は網谷隆司郎編集委員。ベテラン記者で、雑誌編集者としての経験も豊富なので視覚が広く、深い。昨日のコラムから―。
 
『ここ数年、「幸せを感じない日本人」が話題になっていることに思いが飛んだ。国際ランキングではかなり下位だ。就職氷河期が続き、結婚もなかなか、という嘆き節が若い世代から聞こえてくる。
 という思い込みが先日見たテレビ番組「たけしのニッポンのミカタ!」で一気にひっくり返った。20〜30歳代の男女50人に街頭で「あなたは幸せ? 不幸せ?」と聞くと、なんと49人が「幸せ」の札を掲げたのだ。どんな時に幸せを感じるのかというと、「コンビニで買ったシュークリームを食べる時」など“小さな幸せ”の総集編だった。
 現在再放送中の「おしん」の作者、橋田壽賀子さんに以前取材した時、「あのドラマで私が伝えたかったのは、身の丈に合った暮らしが一番ということ」との答え。現代の若者は“おしん魂”の正統な伝承者なのか。
 昨年末インタビューした「新宿鮫」シリーズの人気作家、大沢在昌さん(56)は、今の若者に厳しかった。
 「後輩作家の多くを見ていると、メジャーになりたい、女にもてたい、という欲望を、そんなの無理じゃないですかと初めからあきらめている。身の丈に合ったとか、地道にいくとか、年収200万円でいいですとか」
 時代が違うから一概に上から目線で説教はできないけれど、そんな若者のためにも、世界史上初の超高齢社会の先頭を走る日本の高齢者は、60〜90歳をどう充実して生きるか、世界に自慢できる「幸せ見本」を創造するミッションがあるのではないか』
 
 数本の時代のベクトルを交錯させながらやわらかく問題提起しているが、その核心は骨太だ。同世代の団塊族に、いまや流行り言葉になりつつある「アクティブ・シニア」の人生の真の中味を問いかけている。最後の「幸せ見本」は妙に味わい深い。